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医者からもらった薬がわかる本
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薬をめぐるトピックス
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■臨床研究と医薬品業界の関係
 STAP細胞の話題が大注目を浴びた2014年の第一四半期,さまざまな疑念が提示され,現時点では真実がどこにあるのか不明ですが,科学の世界では再現性があることが証明されれば今までの常識が覆されるようなことでも新たな定理として認められていきます。再現実験が真偽の程を,やがて明らかにするでしょう。
 同じ時期,日本の医薬品や医療の世界では,科学の名を騙った不祥事2件がマスコミを賑わせていました。
 昨年(2013年),世界有数の製薬メーカーであるノバルティスファーマの高血圧治療薬(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:ARB)の一種,ディオバンの臨床試験における不正が明るみに出たところですが,この2月には国内最大手の武田薬品工業が,同じARBのブロプレスにおける医療関係者向けのパンフレットで,臨床試験結果を自社に都合の良いグラフに差し替えて用いていた事件が明るみに出ました。
 業界のトップグループの企業がそろいもそろって,ベストセラー商品であるディオバンとブロプレスに関して,実際には大差のない薬でも自社製品が他社製品に勝るように見せかけるために事実を隠すだけではなく,偽りを公表する。世間の常識とはかけ離れたことが堂々と行われていたのです。
 もう1件は,国立大学の薬学部教授が実名で,同じ大学医学部のいくつもの研究室から出された論文に対して不正論文であると内部告発したものです。ディオバンの事件と同じ構図の医薬品業界と医学部との関係が示唆されており,日本の医学論文が,製薬メーカーとの癒着の賜物と言われても仕方がない現実があることを知らしめています。
 このような例が海外(本書で海外評価の基準としている英米独仏など)で全くなかったわけではありませんが,そういった事実が判明するたびに再発防止の対策が講じられ,例えば今回のディオバンやブロプレスの臨床研究のように,直接・間接の資金提供や人員提供などがあって「利益相反」にあたる場合,欧米の論文では,その詳細(寄付など受けて研究していること)を明らかにしなければなりません。
 欧米で当たり前とされている,論文での研究者と製薬メーカーとの関わり度合いを公表する取り組みが日本ではなかなか進捗しない根本的な原因の一つは,わが国の医薬分業が本来の意味で機能していないためだと筆者は思っています。医薬分業が正しく機能していれば,医師は常に第三者(この場合は薬剤師)の眼を意識しなければなりませんし,そのことで倫理的な歯止めがかかる状態になります。
 それがないということが,臨床試験における倫理規範として定められた「ヘルシンキ宣言」(1964年ヘルシンキで開催された世界医師会第18回総会で採択)を標準として各大学医学部や研究機関に設置されている倫理審査委員会が有効に機能していない理由だと思います。

■成熟していない日本の医薬分業
 良い悪いは置くとして,医薬品という公的財産についても,資本主義社会では民間の活力を用いて開発されてきました。民間企業の熾烈な競争がさまざまな医薬品を世に送り出してきたのは事実ですが,その反面,いろいろな薬害事件をおこしてきたことも事実です。医薬品の開発には膨大な資金・時間がかかります。また,莫大な資金・労力をつぎ込んだからといって必ずしも良い医薬品ができるとは限りません。
 民間の営利企業に,あるいは人間にと言ってもよいかもしれませんが,神のような純粋な良心を期待すること自体,モラルハザードをおこすような制度設計であると言えます。企業にしろ,人にしろ,残念ながら完璧な存在ではありません。偶然あるいは故意に他者の権利を侵害してしまう存在です。
 医薬分業は,そういった偶然の間違いや故意の悪意をチェックするためにスタートした制度だったと言えます。日本では,幸か不幸か毒を盛られる殿様がヨーロッパより少なかったためなのか,医師と薬剤師を互いにチェックするシステムを考えつく殿様が出現しなかったためなのか,受け入れる素地ができていませんでした。
 日本の民主主義は「与えられた民主主義」であり,「勝ち取った民主主義」ではないから根付いていないとの指摘があります。医薬分業も同じで,先進欧米諸国では患者(王様,現代では国民)が自らの安全のために望んだシステムであったものが,日本では形だけマネをして,それも中途半端に導入した結果,他国にはない医院の近くに寄り添う小さな薬局が日本の常識(世界の非常識)となったのです。患者の安全よりわずかな利便性を優先したシステムでは,そもそもの理念からは遠く外れていると言えるでしょう。
 民主主義には時間とコストがかかるということは日本でも認識されてきましたが,医薬分業も同じで,理念の実現には相応の時間とコストがかかるのです。
 そうした理念のないまま,形だけ医薬分業とした今の日本の制度は,医院の横の景品交換所のような薬局や病院の前で客引きをするような,医療の本質と全く無関係なサービスの提供がなされ,それを薬局選択の基準にする患者も少なくありません。民主主義を享受する程,また医薬分業を自らのためのものとできる程,日本人はまだ成熟していないのでしょうか。

■糖尿病治療薬の最新トレンド
 この数年,糖尿病治療はDPP-4阻害薬(インスリン分泌に関連する消化管酵素インクレチンの分解酵素DPP-4の働きを抑えてインクレチンの作用を長続きさせる製剤)が注目を集めていました。7種類8品目(シタグリプチンがMSDからはジャヌビア,小野薬品工業からグラクティブと別名で販売されている)もの製品が発売され,糖尿病治療の柱となってきています。
 今年(2014年)は,さらに新しい作用機序の糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬(余分な糖分を尿中に排出することで血糖値をコントロールする)が発売される予定です。糖尿病治療の選択肢がまた一つ増えるわけで,血糖コントロールがなかなかうまくいっていない患者さんにとっては朗報です。しかし,それでも糖尿病治療の基本が食事療法・運動療法であることは変わりありません。
 その食事療法ですが,3大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物)をバランス良く食べ,総カロリーを制限するというのが基本で,長年指導されてきたものですが,厳密に実行するにはかなりの労力・気力を必要とします。それに対し,最近注目を集めているのが,糖質制限食(炭水化物制限食)です。普段の食事から主食(ご飯,麺類,パンなど)を減らすだけ(糖質を1日量で100g程度とする)で,合併症がなければ他の考慮はほとんど不要という簡単で続けやすい方法です*。
 この方法は,一部の医師が実践し,かなりの効果をあげています。また,アメリカ糖尿病学会のガイドライン2013年版には食事療法の一つとして認められています。にもかかわらず,わが国では遅々として普及していないのです。
 うがった見方として,糖尿病専門医あるいは糖尿病治療薬の製造メーカーからの圧力(脱原子力発電に対する専門家・電力会社の圧力のようなものか)があるためだとも言われています。日本糖尿病学会が出している『糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版』(2013年11月発行)の中でも,“極端な糖質制限食は長期的には腎症や動脈硬化の進行などが懸念され,決して勧められません”と「炭水化物量を把握することと糖質制限のちがい」と題したコラムに書かれています(残念ながら,極端でない糖質制限食がどの程度有用なのかは書かれていません)。
 そんな折,WHO(世界保健機関)が肥満や虫歯などの健康問題対策を強化する取り組みとして,糖分摂取の推奨量を現行(総エネルギー摂取量の10%未満)の半分にすべきとの新しい指針を打ち出しました。普通の体格の方で1日約25gにあたると言います。記事の文面から判断すると,この場合の糖分は砂糖そのもので,糖質(炭水化物)を指してはいないようですが,この指針に従えば,例えば一般的な炭酸飲料500mLには50g前後の糖分が含まれていますから,影響が大きいことがわかります。
 日本人を対象とした糖質制限食の研究も報告が始まっており,1日も早い有用な指針の確立が望まれます。
*注)糖質制限食について詳しくは,糖尿病専門医による著書などを参照してください。また,もちろんですが,すでに薬物治療をしている方が勝手に糖質制限を行ってしまうと低血糖のおそれがあり危険ですので,必ず主治医に相談しなければいけません。

■薬局に求められるもの
 2014年1月,厚生労働省から「薬局の求められる機能とあるべき姿」が発表されました。以下のようなことが提言され,地域の健康情報拠点としての役割が望まれています。
①保険薬局,各種公費医療制度,麻薬小売業者,高度管理医療機器販売業などの指定を受けていること
②原則8時間以上の開局時間,休日夜間の対応
③必要な医薬品(後発品を含む)の備蓄,在宅医療向けの医療・衛生材料の販売,介護用品の供給体制,要指導医薬品・第1類医薬品を含むOTC薬品の販売
④十分な広さの調剤室・待合室の確保,バリアフリー,プライバシーの確保
⑤地域医療への参画
⑥薬剤師の研修
 一読して,この提言で求められている薬局像は,20数年前まで日本中に存在していたごく当たり前の薬局を強化したものであると感じました。しかし筆者が薬局を開業している地域では,この20数年,薬局数はそれほど変化していませんが,その実態は大きく変化しています。
 調剤ができて(薬局はそもそも調剤をする所を意味します),OTC薬,介護用品も取り扱うのが普通だった以前からある薬局の大半は姿を消し,調剤に特化した薬局とドラッグストアに取って代わられています。
 しかし,入院治療から在宅治療へ大きく変わらなければ,団塊世代が後期高齢者となる10年後の医療が成り立たないのが自明の今,現状の薬局の体制では対応が難しいと思われているのです。今まで20数年かけて,10分の1ほどに減らしてきたものを復活させるにはかなりのエネルギーが必要ですが,在宅医療の推進には薬局も変化していくことが必要ということです。
 2年ごとに行われる保険医療の診療報酬改定は,今回は消費税の増税と重なり,上がるもの下がるものが混在していますが,特に在宅医療に関連した報酬にメリハリが効かせてあります。薬局もこの先2年ごとにかなり変化をしていくものと思われます。
 なお,保険医療に関しては消費税は非課税となっていますが,病院・医院や薬局が問屋などから購入する医薬品や医療用具,あるいは事務用のコンピュータなどは全て消費税がかかりますので,その影響を考慮した診察料や調剤料,そして薬価の改定が行われています。

■向精神薬を減薬するための試み
 その今回の診療報酬改定で筆者が特に注目した項目があります。「抗精神病薬や抗不安薬を3種類以上処方すると,処方した医療機関へ支払われる処方せん発行料(院内投薬の場合は処方料と薬剤料)が減額される」ということです。
 イギリスの医薬品集(BNF:British National Formulary)のベンゾジアゼピン系医薬品の項目では,最初に枠付き警告が表示されています。その大意は,
①あくまで2週間からせいぜい4週間の臨時処方として用いるべき
②軽い不安に用いるべきではない
③ベンゾジアゼピン系の薬は重症の不眠治療にのみ用いるべき
となっています。
 わが国における用いられ方は,残念ながら「漫然と長期」というのが多くを占めています。精神科領域では血液検査などでわかる客観的な指標がないため,患者の訴えが大切な情報源ですが,処方を欲する患者の「不安」が元々の疾患によるものなのか,抗不安薬に対する依存から発生しているものなのかは明確には区別できません。これが処方が減らない(あるいは増加する)原因でしょう。
今回のルールが減薬のきっかけになると良いと思います。
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